2014年に日本人として初めて世界で最も有名なブラスバンド「ブラック・ダイク・バンド」の正式メンバーとなりパーカッション・ソロイストとして活躍。帰国後は僧侶としての修行を積み、現在は僧侶兼打楽器奏者として幅広く活躍している福原泰明さん。
そんな福原さんが、「心」をテーマに、仏教の教えを元に、演奏家(音楽家)の悩みや心のモヤモヤを晴らし、どう生きていくか、をライトに語る連載「僧侶兼打楽器奏者 福原泰明の音楽説法」。
第15回となる今回はのタイトルは「利」。さてどんなお話が聞けるのでしょうか。
あれだけ暑かった夏もどこへやら、涼しい毎日になってきて辺りには彼岸花の季節も過ぎ去りました。
「利(り)」。今回のコラムはこのたった一文字をテーマに書いていきます。「利」は禅の言葉で「利益」とか「幸せ」とかの意味を持っている言葉です。
仏教、とりわけ大乗仏教では「自利利他(じりりた)」という言葉が出てきます。ざっくり言うと「自分も他人も利益を得る、幸せになる」の意味です。
…大丈夫です、玄関開けたら「今、幸せですか?」とか仏教ではやりませんので。どうぞ身構えないでください。
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さて、少し前に某企業が提供するお葬式の広告にて位牌(いはい:故人の名前や没年月日が記された木の札のこと)が総菜パックに詰められている写真が使われ、それが広告デザイン賞を受賞して話題になりました。
僧侶の方々と葬儀関係者は「死者の象徴である位牌をパックに詰めるなんて冒涜している」と反発し、他にも多数の方が「不謹慎だ」という声を上げていました。
それと同時に「いや別におかしくないでしょ」「『安くします』という広告としてはアリ」といった容認派の方々や、「そもそも今の葬式が高すぎるんだよ」「今の世の中はこういう流れだ」といった賛成派、というか葬儀自体に苦言を呈する方々もいらっしゃいました。
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これ、凄く難しい問題だと思うんですよね。「この広告に対する第一印象の違い」に凄く深い両者の溝がある気がするんです。
正直、どちらの立場の言い分もわかります。私は僧侶ですので、当然寺院や葬儀関係者の肩を持つことは簡単ですし、もちろん広告容認派や葬儀苦言派の方々の言うことも理解できます。
宗教って定義のほぼ曖昧な「お気持ち」で成り立っている業界で、物事に対する明確な基準が存在しているわけではありません。
要は個人の主観や価値観の問題なので、それぞれの主張に正解も間違いもない。しかしそれと同時に第一印象でそれぞれの立場がほぼ決まってしまう事案であるため、双方が歩み寄る手立てもなく、そこから動けなくなってしまっている。
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つい先日、スポーツの世界でも同じような意見のぶつかり合いが起きました。
サッカーのとあるJリーグクラブの広報責任者の方が「サポーターがクラブに対してできること」という題目でブログサービスに書いていました。
しかしその内容の一部が「有料チャンネルを見てなくてもいいからBGMとして流しっぱなしにすればクラブにお金がより多く入ります!(要約)」というもので、倫理的にどうなの?そもそもそれはクラブ側の利益しか考えられていなく、それをしたところでサポーター側にメリットは無いんじゃ?ということでサッカーファンの間で論争が起こってしまいました。
このサッカー界の騒動が、最初の葬儀広告の騒動の構図と同じだと私は思ったのです。クラブ側が寺院葬儀会社。ファン側が葬儀サービスを受ける人々。
これはただの私の推測ですが、葬儀苦言派に方々の中には、以前に葬儀を行ったときに寺院や葬儀会社に対して何かしら不満を持った人が少なくないと思うんです。だから現状の葬儀の在り方についてネガティブな気持ちを持っていて、例の広告に反発する僧侶葬儀関係者に苦言を呈している。
そこで私は思いました。今、寺院側に必要なことは「寺院がどのくらい他者にプラスを与えられるか」ということだと。
例えば法事の時以外にも気軽にお寺に来るきっかけを作るために無料イベントを開くことなど…。
「人々が寺院にどれだけ貢献してくれるか」というお布施を待つ時代は終わりました。これからは「寺院が檀家さんに、地域の人々に対してどれだけできるか」が大事なのです。
先述のJリーグクラブの広報責任者は「サポーターがクラブに対してできること」と言っていましたが、これも逆で「クラブがサポーターにどれだけできるか」によって今後数十年先のクラブの進路が決まってくるでしょう。
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「自利利他」という言葉は「自分も相手も利益を得ること」と最初に書きました。
自分の存在をより多くの人に受け入れてもらえるには、「自分が相手に対してどれだけ利益を与えるか」を示す必要があります。
そしてそれを認めてもらった証に対価、自分の利益を受け取ります。
音楽でも一緒ですね。まず「自分がどれだけ演奏できるか、相手に知識や利益を与えられるか」という提示が無いと誰からも声をかけてもらえません。
寺院もサッカーも音楽も、今後存在し続けるためには「相手の利益」であり続ける必要があるのです。
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余談ですが、閉鎖的だった私のお寺を開放的にするべく、最近頻繁に地域の友人、初対面の人まで家に招き入れています。結果的に雨の日以外はほぼ毎日、一歳児から小学生まで出入りするようになりました。
それはそれで良いのですが、昼間から友人と庭先でビール飲むのやめてください、妻よ…。
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今回も面白いお話が聞けましたね!
少し趣向の違う、語りが面白い福原泰明さんのブログもぜひ読んでみて下さい。
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これまでのWind Band Pressでの連載記事はこちらから読むことが出来ますので、合わせてどうぞ。
※この記事の著作権は福原泰明氏に帰属します。
【福原泰明 プロフィール】
東京都出身。15歳より打楽器を始める。日本大学文理学部心理学科卒業。英国王立北音楽院修士課程修了。
在学中に学内奨学金を授与される。打楽器全般を大里みどり、シモン・レベッロ、エリザベス・ギリバー、ポール・パトリック、ティンパニをイアン・ライト、ラテンパーカッション及びセットドラムをデイヴ・ハッセルの各氏に師事。第11回イタリア国際打楽器コンクール(ヴァイブラフォンの部)ファイナリスト。
2011年7月、渡英と同時に、世界で最も名高いブラスバンド(金管バンド)の一つ、フェアリー・バンドに入団。同年10月より首席打楽器奏者を務める。同年12月にはブラスバンド専門ウェブサイトの4barsrest.comにて「2011年打楽器奏者ベスト5」の一人として取り上げられる。2012年には有名ブラスバンド専門雑誌「British Bandsman」にて表紙を飾り、ロング・インタビューが掲載されるのを始め、複数の音楽雑誌に取り上げらるなど、英国ブラスバンド界ではまだ数少なかった”打楽器ソリスト”として活動。その存在は、普段ブラスバンドの中ではスポットが当たりにくかった”打楽器”を”ソロ楽器”として認識させることとなる。2013年1月、「RNCM Festival of Brass」にて自身が委嘱したロドニー・ニュートン作曲の打楽器協奏曲「ザ・ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・サン」をフェアリー・バンドと共に世界初演し、満員の観客からスタンディング・オベーションを受け、ブラスバンド界の演奏者、指揮者、作曲家、編集者の各方面からも絶賛される。
同年10月よりレイランド・バンドに入団。打楽器ソロ曲のレパートリーを更に広げていく。同年11月、三大ブラスバンド・コンテストの一つ「Brass In Concert Championships」にてマリンバとフリューゲル・ホルンのデュオを演奏し、「本日の最高の演奏の一つ」(4barsrest.com)と評される。
2014年、世界で最も有名なブラスバンドと言われるブラック・ダイク・バンドに史上初の日本人正式メンバーとして入団。マリンバ・ソロイストとしてコンサートでソロを務める。
オランダの打楽器メーカー”マジェスティック・パーカッション”エンドーサー。
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